第36話
翌日、学校内では新たな噂が浮上していた。
それはなんと俺に関するもので、登校した頃には既にかなりの範囲に広まっていたように思う。
これまでも悪評に分類されるようなものはあったが、今回は毛色が違う。
真尋の時と似たようなさまざまな人のさまざまな想いが混在しているみたいで、自分のことながら俺自身は取り残されているような、なんだかよくわからない疎外感を感じた。
だが、そんな俺に自分はまさに渦中にいるのだと思い知らせてくれたのは、やっぱりこいつ…航太だった。
「…ったく、一体全体どうなってんだ!」
放課後になり、俺の席に歩み寄りながら航太が叫ぶ。
何に対しての言葉かは訊かなくても解る。
その視線は、お前のことだと言わんばかりに俺に向けられていた。
「この前断ったんじゃなかったのかよ、もうー…」
つむじが見える程に項垂れる航太。
ついつい思ったことが口を吐く。
「大袈裟」
「何だと!お前なぁ…そりゃ大袈裟にもなるってもんだろ」
「…そうだとしても、なんで航太がそんなにショック受けるんだよ」
「だってお前、恋愛面に全然興味なさそうだったじゃねぇか。お前だけは俺を置いていかないと思ってたのに…」
言いながら、俺が立ち上がった椅子に入れ違いに座る。
まあ、それは俺も思うけれど。正確に言えば興味がなかった訳ではなく、そんな振りをしていただけなのだが。
「…それにしても、意外だったな。お前が彼女作るなんてさ」
「……」
それについても全くの同感である。
次ぐべき言葉に詰まっていると、不意に女の子の声が教室内に響いた。
帰宅前のざわめきが一瞬静まる中、入口に現れたのは竹島だった。
「司くーん」
手を振りながら入ってくる。
馴染みないクラスに入ることや、今は余計に注目を浴びる可能性の高い俺との接触に躊躇いなど感じさせその姿。
物怖じしない彼女の性格がそこに見えた気がした。
「司君、一緒に帰ろう?」
少なくとも航太や仲間達の目が向けられる中でもキラキラという形容が似合うような笑顔で語りかける。
不意の申し出に俺は戸惑った。
普段あまり意識したことはなかったものの、俺にはほぼ毎日放課後の行動を共にする友人達がいる。
時々別の人間とということもあるとはいえ、竹島と一緒にという腹積もりが皆無だったためのこのフリーズ。
実は彼女が発した俺の呼び名が「蘭堂君」から「司君」に変わっていることにも気づかずに。
しかし、15cmほど低い位置から向けられる強請るような視線にハッとする。
「ねぇ、駄目?」
「あー…いや、航太達と帰るから…」
「え、だって私達付き合い始めたんだよ?一緒に帰らなきゃ」
“帰らなきゃ”
帰りたいでも帰ってほしいでもなく、半ば強制的な響きを持つ物言いにまたも戸惑って航太を見る。
そうなのかと尋ねるような意を含んでいたのだろう、傍で黙っていた航太が慌てて立ち上がった。
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