第33話

そのニュースは、瞬く間に校内を駆け抜けた。


だいたいいつも俺のこの手の話の情報源は航太で、あいつが知るなり勝手に教えてくるのだが、今回はそれよりも早く校内に湧いた噂で知った。


それには真尋がその容姿からこの学校の男共の注目を浴びやすいからというのがあったが、それ以上の理由は真尋の彼氏になったとされる相手にあった。


名前は遠藤聡志(えんどうさとし)。

俺と同じ2年生のそいつは、長身のいわゆるイケメンである。

バスケットボール部に所属していて、かなり上手い上に人望もあるらしく、次期キャプテンになるであろうという話もあるそうだ。

それだからか女子からの人気は凄まじい。


噂によると告白したのは遠藤のほうで、真尋は即時OKしたんだとか。

後で菊乃を通じて聞いたという航太の話では、遠藤こそが真尋の好きな奴だったらしい。


知らなかった。

真尋も案外ミーハーだったのだ。


…なんて思ったのは、真尋が想いを実らせたことへの、また、遠藤が真尋を掻っ攫っていったことへの負け惜しみかもしれない。

掻っ攫われたなどと言える立場にいなかったくせに、俺は勝手にそう感じていた。


だって真尋に最も近い所にいる男は俺のつもりでいたのだ。

天変地異でも起こったみたいだ。


だから耳を疑った。

本当かよ、なんて通りすがりの生徒に詰め寄ることもできず、ただ衝撃だけが突き抜ける。

畜生、タチが悪い。

悪すぎる。


そんなのアリかよ。

なぁ、真尋。


現実逃避したい衝動に駆られながら、人知れずそう呟くしかできなかった。



しかし、現実とは無情なもので。

それから暫くして俺はそれを目の当たりにすることになる。

ある日の下校時のことだった。


「おい、あれ菊乃ちゃんじゃないか?」


校門に向かう坂の一本道を下っていた時、前方を指差して航太が言った。

見ると、後ろ姿だが確かに菊乃が歩いていくのが見える。

俺達が距離を詰めると、菊乃は会釈をした。


一人きりである。

たいてい一緒の真尋がいない。

無意識に真尋を探す俺をよそに二人は話を始めた。


「菊乃ちゃん、これから道場?」

「はい。稽古です」

「頑張るなぁ。毎日練習してるんだろ?すげぇよなぁ」

「秋に大会があるんですよ。だから父も厳しくて」

「そっか、頑張れよな。応援してる。…って、そう言えば真尋ちゃんは?」


遅れて真尋の不在に気付いたらしい航太が問う。

すると、菊乃は一度更なる前を仰ぎ見て、校門付近を示した。


航太も俺も視線を追う。

そこには真尋の姿があった。


その隣には、あの遠藤の姿も。


二人は話をしながら歩いている。

互いに僅かな距離を保ちながら、照れ臭そうで、それでもどこか親しげで。


それを見た瞬間、俺の中に仄黒い感情が湧き起こった。



嫉妬だった。

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