第32話
「いる。だから、ごめん」
俺ははっきりと頷いた。
その「好きな子」には想い人がいるとわかっているというのにだ。
あれから夏休みの間中ずっと考えた。
悶々と考えて、考えて。
どうして相手が真尋なんだろうと不思議になったり、更にはどうしてもっと早く教えてくれなかったんだと見当違いに真尋や航太を責めたりして。
だけど、そうしているうち、俺の中の想いは固まってしまったように思う。
どうすればいいのか未だわからないままに。
肯定するより他になくなってしまっていた。
俯いてしまった竹島を置いて、その場を去る。
航太達に合流すると、すぐに槍玉にあげられた。
あんな可愛い子を振るなんてどうかしているだとか、勿体無いだとか、そんな類だ。
まったく、他人事だと思ってどいつもこいつも好き勝手言いやがる。
試しに付き合ってみるといいのにとも言われた。
そんなことする訳ないだろと答えた。
でも、その理由は誰にも言わなかった。
言えなかった。
秘密主義だからという訳ではない。
航太への義理が多少なりともあったからじゃないかと思う。
あれから航太が自分の気持ちがどうなったのかを言わないでいるから、俺もどう話していいのかわからなかったというのもあった。
でも、それでいいと思っていた。
少なくともこの時は。
そんな風に引っ込み思案になりきっていたことを後悔する日が来るなんて思いもしなかったから。
恋愛にまつわる経験が絶望的に足りないからか、単に俺が馬鹿だからかは定かでないが。
だが、その「後悔する日」はある日突然やってきた。
予告なく、気配すらなく。
「真尋に彼氏ができた」という特大スクープと共に。
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