第30話
「…で、どうだったんだ?」
尋ねる声が思わず神妙になる。
すると、航太の笑みも消えた。
「振られた。玉砕」
大きな溜め息と共に返される答え。
俺はこっそり安堵したが、それ以上に今の航太の気持ちを思うと笑えなくて、そうか、とだけ呟くので精一杯だった。
「まあ、その可能性が高いことはわかってたんだけどなぁ。…真尋ちゃん、好きな奴いるんだとさ」
「…は?」
思いがけない言葉が続き、間抜けな声が出る。
今、何と言った?
好きな奴……誰に?
真尋に?
「ショックだよな…いざ面と向かって振られると。しかも既に好きな奴がいるんじゃ望みはないに等しかった、と。そういう訳だ」
壁に背中を預け、空笑いをしながら零される航太の言葉を聞きながら、俺は軽くハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けていた。
航太の言う通り、全てにおいて「その可能性」がないとは言い切れないのだが、予想することすらしていなかった事柄を前にして、なかなか理解することができない。
その時ちょうど菊乃と共にトイレから戻ってきた真尋に、自分には想い人がいるのだと航太に告げた真尋の姿を照らし合わせる。
すると違和感なんてなかった。
どうやら何らおかしいことではないらしい。
知らなかった。
真尋はとっくに恋をしていたのだ。
つい先日自分の想いに気づいたばかりの俺とは違い、告白してきた男を玉砕させる手段として使える程には熟している恋を。
真尋と菊乃を迎えながら笑って明るく努める航太の横で、俺はすっかり心乱されていた。
ショックだった。
真尋の心に場を占める誰かがいることも、それを知らなかったことも。
これは、気づいたばかりで、何もしないままに俺も失恋ということだろうか。
最悪だ。
笑えない。
まったくもって笑えない。
まだ誰にも話したことなく俺自身の中にだけ生きていたこの想い。
俺は「これ」を一体どうしたらいいのだろう。
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