第29話
二人の様子は対照的だった。
ショーを観ながらはしゃいでいる様子の真尋の横で、航太はじっと座ったまま前を見詰めている。
本当に微動だにしなくて、ショーを観ているのかすら定かではない。
俺もそうだった。
イルカが芸をする度に拍手を贈る菊乃に合わせてなんとか観覧に集中しようとするものの、どうしても気になって二人をチラチラ盗み見てしまう始末。
でも、二人に変化はない。
それは暫くしても変わらなくて、ショーが進むにつれ、俺はもしかしたらこのままあいつが思いを遂げられず終わるのかもしれないと思い始める。
しかし、そんな時だった。航太が動きを見せたのは。
航太が真尋に何やら話しかけ、それに真尋が応え始める。
最初は真尋は周りに合わせて拍手をしたりなど、意識半々で聞いていたようだが、そのうち完全に航太の話に意識が向いたようで、しまいには膝に両手を下ろしたまま動かなくなった。
航太が、告白をしたのだ、と思った。
ショーも終盤になるとイルカ達の演技も派手なものの連続になり、観客も湧き立つ。
でも二人だけは何が起きても反応しなかった。
真尋も航太も俯いていて、そこだけ異空間のようだった。
俺の心臓は、苦しいくらい波打った。
航太が何と言ったのか、真尋はそれに何と答えたのか…それらが気になって気になって、ショーが早く終わってほしいような終わってほしくないような気持ちが渦巻いて、居たたまれない。
そうしているうちに、ショーは終わりを迎えた。
観客が立ち上がり始めるや否や、菊乃を連れて足早に出口に向かう。
始めは、そんなに急がなくてもと言いながらついてくる菊乃。
しかし、そんな彼女も出口で真尋と航太に会うなり俺を追い越した。
理由は言うまでもない。
俯く真尋の様子に只ならぬものを感じたんだろう。
俺は航太を見た。
何故なら答えの全てを航太が教えてくれると思ったから。
そんな航太は、笑っていた。
全然観てなどいなかったくせにショーの素晴らしさを語っている。
その明るさはまさか成就したのではと思わせるほどで、俺はもう気が気でない。
トイレに行くと言ってこの場を離れる真尋と菊乃を見送りながら隣で笑みを浮かべる航太を窺う。
すると、航太は壁に寄りかかりながら大きく息を吐いた。
「いやー、参った。告白って緊張するんだなぁ」
尚も明るい声。
やはり告白していたらしい。
逸る気持ちを抑えて俺は答えた。
「…言ったのか」
「ああ、言った言った。考えてた事の半分も言えなかったけどな。畜生、結構カッコイイ言葉考えてきてたのに」
どうしても長く感じてしまう前置きの言葉を紡ぐ航太。
その笑顔に苦味があるのを感じると、俺の中の親友への友情が自分勝手な思いを凌駕していく気がした。
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