第27話
事態がのみ込めずきっと馬鹿みたいに口を開けていた俺の視界に真尋が映り込む。
更にその横には菊乃が立っていて、ますます混乱した俺は状況把握に必死になった。
さっき部屋から覗いた時、菊乃や航太はいなかったように思う。
陰にいて見えなかったのか、それとも、俺の視神経が都合よく解釈して真尋しか見せないようにしていたのか…
後者ならさすがに落ち込みたくなるところだけれど。
「どうしたんですか、司君?」
「…ああ、いや、何でも…。菊乃達も一緒なんだな」
菊乃に心配げにうかがわれ、内心慌てつつも平静を装う。
すると頷きが返された。
「本当はね、最初に私が航太君から誘われたの。それで菊乃や司にも声かけたらもっと楽しいんじゃないかなって思って」
真尋から簡潔に事の経緯が説明される。
それで納得した。先程の航太の声が荒かった理由。
今も心なしか釈然としていなさそうな顔つきをしている航太は、きっと真尋と二人で行きたかったんだ。
俺は少しの申し訳なさを感じると共に、それよりもっと大きな安堵を得る。
やはり親友相手に酷い話だ。
それから四人で歩き、駅を目指す。
俺達の住む市内にある水族館へは電車で10分。
車内は程良く込んでいて空席があまりなく、女子二人に席を譲り航太と俺はその前に立つことにして、談笑しながら目的地へ向かった。
やがて水族館のゲートに辿り着く頃にはもう既に楽しくて仕方がないという状態。
しかし、明るい笑顔で先に中へ入る真尋と菊乃に続こうと俺も係員にチケットを出しかけた刹那、不意に後方へ腕を引かれて歩みを止めた。
振り返ると、俺の腕を掴む航太がいた。
つい今しがたまでとは違い、どこか神妙な顔をしている。
どうしたのか問おうとすると、先に航太が口を開いた。
「なあ、司。今日、途中で真尋ちゃんと俺を少し二人きりにしてくれないか?」
それは思いがけない申し出。
俺が目を瞬かせていると航太は更に続けた。
「俺、その時真尋ちゃんに告白しようと思う」
「…え?」
「今日は…本当はそのつもりで誘ったんだ。だから少しの間だけ…頼むよ」
まさかの展開で口を挟むのに遅れた俺の肩を叩き、願いを託す航太。
それでもすぐに拒否すればよかったものを、それができなかったのは、こいつの顔がやけに真剣だったから。
そこへゲートの向こう側から俺達を呼ぶ真尋の声がかかり、航太が俺を追い抜く。
俺はその後ろ姿を視線で追い、次第に速まる鼓動の音を聴きながら拳を握った。
尋ねてくれればいいものを、と思う。
惚れる時には俺の許可を求めたくせに、告げる時にはしないのか。
嘘だろう?そんなのアリかよ。
告げられたところで自分がどうしたかはわからない。
けれど、訊かれないということはそれだけ航太が本気なのだということを物語っているように思えた。
恋敵になろうとしている親友を前に、俺は動揺するしかできない。
どうすればいいんだろう。
考えても答えが出ない問いを繰り返しながら俺もゲートをくぐった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます