第24話
「ふざけてんの、アンタ!染めてこいって言ってんだから言うとおりにすればいいんだよ!」
当然ながら真尋の言葉に逆上した声色へ変わる女。
理不尽極まりない言い分のその中に、一瞬だけ金属音のようなものが聞こえる。
しかし真尋の陰になって事態が見えず俺が目を凝らした刹那、女に強く突き飛ばされた真尋が後ろによろけ芝の上に尻餅をついた。
「アタシ等が切ってやるよ、そんな髪!」
漸く光景が見えると共に叫ばれる声。
その主の手にハサミがあるのを目にするが早いか、反射的に俺は駆け出した。
「何やってんだ、お前等!」
怒鳴ると、突然の第三者の出現に驚いた女共はまさに真尋の髪を鷲掴もうとしていた手を止めた。そして慌ててハサミを後ろへ隠す。
「蘭堂くん!なんで…」
「なんでじゃねぇ!今ハサミ持ってただろ。出せよ」
「な…何のこと?アタシ等何も…」
「嘘吐くな!俺は見てたんだ」
明らかに目を白黒させながらもしらばっくれようとするその子の後ろに回り込む。
すると、やはりその手にはハサミがあって、完全に頭に血が昇っていた俺はそれを強引に取り上げた。
手にすれば先程の光景が舞い戻ってきて、ますます我慢ならなくなってくる。
「最低なことしてんじゃねぇよ」
「だって、その子が校則違反してるから…」
「生まれつきなんだよ。こいつもそう言ってたろ。学校の許可も得てる。それでも文句があるなら次は俺んとこに来い!」
言いながら自分でも驚くほどに口が回った。
これまで誰と喧嘩をしてもあまり口数は多くなかったのに、というかそうだったことにたった今まで気づいていなかったということを初めて自覚したほどには俺は饒舌だったように思う。
女子達は走り去って行った。
バタバタと逃げるようだったあたり、校則違反を正すという高尚な理由からの行動ではなかったのだろう。
その姿が体育館の陰へと消えたのを見届けると、途端に静かになった。
そこでようやく真尋を振り返る。思えば場に飛び出してから今まで見ていなかった真尋の顔は俯いて伏せられていて見えない。
もしかして泣いているんだろうか。
「…ったく、あいつ等こんな物持ち出しやがって。許されると思ってたのかよ」
「…」
「地毛だって言ってんのに。まあ、本当のところがどうかなんて関係ないんだろうけど」
「…」
「真尋もだぞ。前からあったなら、なんで俺に言わないんだよ。」
「……なんで、司に?」
未だ冷静さを欠いているからなのか、心にあることと、あるのか定かでないことを並べ立ててしまう。
しかし、それが正解だったのかもしれず、真尋は顔を上げた。
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