第23話

「実はさっき二年生の先輩方に呼び出されて行ってしまって」

「…呼び出された?」

「はい…入学してすぐあたりからの三度目なんです。理由は、髪の色のことで」


そこまで聞いてハッとする。

つい今しがた見た真尋の後ろ姿と、その前を歩いていた女子達の、連れ立っていたその真相。

あれは決して仲の良さ故のものではなかった、ということか。

その答えは目の前の菊乃の心配露わな様子からも明白だった。


「言いがかりです。だって真尋ちゃんの髪は…」

「ああ」

「…司君…」

「分かってる」


続く菊乃の言葉が理解できて、俺は遮るかのように頷くと歩きだした。

廊下を進み階段を降りて校舎を出る。そして辿るはさっき真尋が歩いて行った道。

『助けてください』

菊乃は恐らくそう言いに来たんだ、と思い込みではなく思って。


だって本当にそうなんだ。

真尋のやや明るい髪は母親譲りの生まれつきのもの。

確か学校へも許可申請をしているはずで、だから誰からも咎められる覚えはない。

俺のような不真面目が由来の染髪とは種類が違う。


考えるうちに怒りが込み上げてくる。

そう、ちょうどガキの頃に泣いていた真尋の傍へ向かっていた時の自分の感情に似たものがあるように思えた。

使命感、なんていうと大袈裟で思い上がりもいいところだが。


やがて体育館の裏手に着くと、校内の喧騒から僅かに距離をとったそこから女子生徒の声がしてきた。

足を止め、建物の陰から覗いてみる。

案の定、腕組みをした数人の集団と、それに対峙する真尋の後ろ姿があった。


「髪、黒くして来いって言わなかったっけ?」

「どういうつもりでそのままで来てんの?アタシ等のことナメてんの?」

「明日までに、っていうか今から帰って黒くしてきなよ。そしたら許してあげるから」


一体全体真尋とどういう間柄なのかと問いたくなるほど率直に、強い言葉を浴びせる女共。

俺の時もそうだったが、暇な先輩たちというのはどうもやることが似通っているらしい。

しかし、あの時以上にむかっ腹が立ってくる。

話に割って入ろうと足を踏み出そうとしたその時、真尋が発した声が耳に飛び込んで、俺は動きを止めた。


「できません」


それはどこか凛とした響きを持つ声。


「は?アンタ何言って…」

「地毛だって言いました、この間。だからできません」


尚も続くその声に、俺は再び顔を出して真尋を見た。

相変わらず背を向けていて顔は見えない。

でも、その佇まいは声同様に凛としていて、息を飲んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る