第21話
航太の目が答えを求めている。
狙ってもいいか、と問うたその答えを。
胸のざわめきの理由やこれをどうすべきかなどに思い馳せる余裕のないままに、俺は返すのに相応しい答えを探した。
…そもそも、何故俺の許しを得る必要があるんだろう。
確かに真尋は幼馴染みで、航太より俺のほうが付き合いが長くて距離も近いが、だからといって俺が窓口な訳ではない。
ましてや真尋は俺のものでもないんだから。
そう考えて、それを口に出そうとするものの、言葉にならない。
真尋は俺のものじゃない。
その分かりきった事実を俺は自分の中で繰り返していた。
まるで、自分に言い聞かせるように…
「司?やっぱり駄目か…?」
不安そうな、残念そうな航太の声にハッとする。
一体何がこんなに俺をざわつかせるのか。
俺は幼馴染みと親友の関係に口出しでもしようとしているのだろうか。
真尋は俺のものじゃないのに。
結論に行き着くのが嫌で考えないようにしたが、俺は幼馴染み相手に独占欲を振りかざしたくなんかない。
だから、答えた。
「…勝手にしろよ」
心なしか低くなった声。
気付いていない様子で一瞬にして航太の表情が晴れる。
見ないようにしてもそれが分かって、俺は歩きだした。
知ったことじゃない。航太がどうしようと。
ついでに言えば、真尋がどうしようと。
俺は幼馴染みなんだから、俺に訊く必要はないんだ。
それなのに何故こんなに胸が騒ぐんだろう。
この時の俺には分かっていなかった。
その理由も、表面上だけではなく見えないところで起きていた変化も。
何もかも分かっていなかったんだ。
+++++++
その日を境に、航太はしょっちゅう教室から姿を消すようになった。
二年生になってもクラスが同じになったためこれからも今まで同様校内での大半を航太といることになると思っていたのだが、中休みや昼休みなどの少し長めの休み時間になると、決まってどこかへ消えていく。
しかし、その行先はすぐに分かった。
戻ってくると、必ず航太がするのは真尋の話ばかり。
航太は隣の校舎の真尋の教室まで会いに行っているらしかった。
そして、今日も今日とてそれは繰り返される。
昼休み、航太がいないことで静かな休み時間を過ごせる俺は、窓際の机に突っ伏してとろとろと心地良い眠りを味わっていた。
春の陽光は酷く眠りを誘い、授業中でも眠くなる。
だれにも咎められる恐れなく居眠りするにはちょうどいい時間帯だ。
でも、そんな安らいだ時間は10分と経たず壊される。
前の席の椅子に誰かがドカリと勢い良く座ったようで、衝撃からの机の揺れで俺は目を覚ました。
顔を上げると、そこには航太がいた。
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