第20話
「びっくりした。陰になってて見えなかったから。…あ、入学おめでとう!今日から司と一緒に登校?」
「ありがとう。今日からっていうか、初日だから誘ってみたの」
「え、じゃあ一緒は今日だけ?何だよー、これから毎日一緒でもいいのにさ」
間に立つ俺そっちのけで会話が交わされ始める。
航太なんかはまるで半身を乗り出すようで、歩きづらいことこの上ない。
まあ、それも実は頷ける。
二人が初めて対面してから俺が遅れて自宅に入った後の航太の浮かれ振りは相当だったから。
真尋のことを、「可愛い」「あんな可愛い子がいるならどうして早く教えなかったんだ」「誰だ、可愛いと思ったことないなんて言った奴は」などと興奮気味に散々言っていたのだ。
俺が場所を替わろうかと一歩下がろうとしながら航太を見ると、航太は真尋の向こうを歩く菊乃にも今更ながらに意識が向いたようで、真尋や俺へと一瞬不思議そうな目を向けた。
「幼馴染み。もう一人の」
「雨坂菊乃といいます。宜しくお願いします」
しょうがないから教えてやれば、菊乃が足を止めて会釈を一つ。
何気ない動作だが、それはとても綺麗で洗練されていて、航太の姿勢はさっき以上の伸びを見せた。
「あ、どうも、吉高航太です。い…以後宜しく、お願いします」
何故そうなると問いたくなるようなたどたどしさで応える航太。
他人に調子を狂わされている様子を初めて見る気がして、なんだか可笑しかった。
それから暫くして、校舎の違う真尋と菊乃と別れた。
航太は昇降口に入っていく彼女達が見えなくなるまで大きく手を振って見送っている。
俺も校内に真尋や菊乃がいる光景が新鮮で隣に並んで見ていて、やがて自分の校舎に入ろうと踵を返すものの航太が後に続こうとしない。
促すように腕を軽く叩きながら再び傍らに立てば、航太はまだ真尋達のいなくなったほうを眺めていた。
「…なあ、司」
名を呼ばれ目を遣る。
航太の視線はじっと前を向いたままだ。
何か言いたげではあるものの二の句が継げられない。空気がどこか緊張感を帯びる。
「どうした?」
「あのさ…俺、真尋ちゃん狙ってもいいか?」
「……は?」
「真尋ちゃん。俺…あの子のこと好きになっちまったかも」
あまりの思いがけなさに言葉が続かなくなる。
開いた口が塞がらない。二の句がどうこうというのは俺のほうだった。
航太が、真尋を…今、好きだと言った。
それはつまり、恐らく友愛の感情の意味ではなくて、きっと恋愛のそれで…
ようやく航太が俺を見る。
その瞳は真剣そのもので、視線がぶつかった瞬間、俺の胸は一気にざわついた。
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