第4章 初恋

第19話

第4章【初恋】





「おはよう、司」

「おはようございます、司君」


すっかり春めいた四月。

登校すべく玄関扉を開けた瞬間そこに待っていた後輩達に声を掛けられたのは、学校で進級式が行われた翌日のことだった。


後輩達というのは、真尋と菊乃のことである。

二人ともセーラー服に身を包み、まだ中身の少ないスクールバッグを持って、入学したての初々しさに満ちた笑顔で立っていた。

いわゆる出待ちと呼ぶに相応しいものだ。


「…何やってんだ、お前等」

「何って、待ってたの。学校一緒に行こうよ、司」

「でも、お前等の家から学校までってここから逆方向だろ。わざわざ来たのか?」

「はい。初日くらい久し振りに三人で登校したいねという話になったんです。いけなかったですか?」

「いや、別にいけなくはないけど…」

「じゃあ行こうよ!早くしなきゃ遅れちゃう。司なかなか出てこないんだもん」


あれよあれよという間に先導して歩きだす二人。

朝はいつも学校付近で友人に会うまで一人の時間を密かに楽しんでいる俺だが、どこか嬉しそうに前を歩く二人の姿を見ると言えなくなり、後に続く。


そのうち肩を並べて思ったのは、真尋も菊乃も背が伸びたんだなということ。

勿論俺も伸びたし、伸び幅は男である俺のほうが大きいとは思うが、真尋は160cm程はあるんじゃないかと思う。

その向こうにいる菊乃が少し小さく見えた。


そして、そんな真尋の横顔は本当に楽しそうで、先日俺が不用意な言葉を吐いたあの日に見せた表情の面影はない。


俺はあれから暫く気になっていたんだ。

今まで真尋を怒らせたことはあっても、あんな顔をさせたことはなかったから。

だから、合同で催された真尋と菊乃の入学祝いパーティーに出席した時も、内心顔を合わせるのが気まずいとも思っていたりした。


でも、いざ対面した真尋はいつもの彼女で、あの日のことを忘れてしまっているかのような、はたまたあの出来事などなかったと思わせるような素振り。

謝ろうかと思っていた俺は拍子抜けして、結局話題にも挙がらないままに終わった。


そこにまた、真尋の変化を感じたりもした。


そうして真尋の姿を盗み見ていた時、俺は不意に背中に軽い衝撃を受け、前へつんのめった。

原因を知るべく振り返るより早く隣に航太が現れる。

手に鞄を持っているあたり、それを俺の背中にぶつけたらしい。

まず声を掛けるとか肩を叩くとかしないのが俺達流だったりする。


「ウイーッス。何ちんたら歩いてんだ、つか、さ…って、真尋ちゃん!?」


気の抜けた挨拶をしながら俺を見る航太が、その俺越しの真尋に気付いて瞠目する。

そして真尋が挨拶の言葉と共に笑みを向けるなり、ポケットに突っ込んでいた片手をすぐさま出して姿勢を正した。

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