第16話
「今帰り?…って、司どうしたの、怪我してる」
俺の顔の傷に気付いたらしい真尋が覗き込むように近付く。
俺は何故だか気まずさを覚えて、それとなく口元の痣を掌で隠した。
「別に、何もない。それより何だよ、その格好」
「ああ、これ?昼間買いに行ったの。せっかく試着したから、おばさんに見てもらおうと思って」
答えながらどこか興奮気味で揚々とスカートをひらめかせる真尋。
そう言えば、真尋はこの春小学校を卒業して俺が通う中学校に入学してくる事になっていた。
祝いのパーティーを開くんだと母さんが言っていたような気がする。
状況を理解して今一度真尋を眺める。
栗色がかった髪と人より色素の薄い肌色が、深い紺色の制服に映えて見えた。
「司にも見せびらかそうと思って来たんだよ。帰るとこだったけど」
「だったらもう少し遅く帰ってくれば良かったな」
「何それ、酷い。じゃあ私ももう少しいれば良かっ…」
「そうだぞ。酷いぞ、司!」
茶化しながら憎まれ口を叩き合っていれば、横入りする航太。
その鼻息はどことなく荒い。
そして、そのまま俺の肩を押し遣ると真尋の前に立った。
「司の知り合い?名前は?」
「え?…あ、はい。真尋っていいます」
「真尋ちゃんか。俺、航太。吉高航太。制服似合ってるよ。もしかしてうちの中学の子?」
「ううん。四月から入学」
「マジで?俺さ、司と同じで今度二年になるんだ。もし何か分かんないこととかあったらいつでも訊いて。何でも教えるからさ」
妙に早口な航太の口振りから、浮かれている様子がうかがえる。
学校でも女子の前ではいつもだいぶ調子の良いことを言っている奴だから何も珍しいことではないが、喧嘩の名残で痛む肩を押されたことへの仕返しはしておきたい。
だから、今度は俺が航太を押し返した。
「航太に訊いたところで何も解決しないだろ」
「そんなことねぇよ。皆の相談役・航太アニキとは俺のこと…」
「あーはいはい、分かったから先に家上がってろよ」
耳にしたこともない自称を何やら得意げに語り始めるのを更に追い遣り自宅玄関のほうへと促すと、渋々ながら従う航太。
玄関に向かいながら大きな声で「またね!」と真尋に告げてくると、真尋は笑顔を返して手を振っていた。
扉が閉まり航太の姿がなくなると、途端に静かになる。
あまり意識したことはなかったが、航太のようなテンションの高さを持ち合わせた奴といることに慣れていると、そうではない恐らく一般的な状況を“静か”と感じるようになっているのかもしれない。
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