第15話

そうしているうちに一学年が終わりを迎えた。

春休みに入ってからというもの俺は連日のように航太と出かけ、そろそろ夕飯かというような時刻に帰宅するという毎日を送っていた。


帰宅時は、いつも航太と別れてからポータブルオーディオで音楽を聴きつつ軽い足取りで自宅へ向かう。

家に入れば専業主婦の母さんが宿題をやっているのかなどの言葉をかけてきて、思春期ながら特別強い反抗心のなかった俺は適当に答えて二階の自室へ上がる。


でも、この日は違った。

俺達は喧嘩による傷を負っていた。

どういう流れでそうなったかと言うと、原因は午後に立ち寄ったゲームセンターで他校の生徒と肩がぶつかったとかいう程度の至極くだらないものだった。


喧嘩はたまにする。

今日のように。


俺達から仕掛けることはない。

たいていの場合は売られたものを買うだけだ。

好んでいる訳ではないからだが、加えて俺達には相手に大きなダメージを与えるような武器は使わないという暗黙の了解のようなルールもあった。


だから、喧嘩の後はだいたいどこか清々しい。


体はあちこち痛むけれど会話は弾む。

今日は先日買ったCDを借りるため俺の家へと共にやってきた航太が一緒だから尚更だった。


角を曲がり、自宅のある通りに差し掛かる。

すると、前方の我が家の庭先から出てくる人の姿があった。


オレンジ色の夕焼けを背負うその人物は輪郭だけが鮮明で、誰であるかの判別が遅れる。

次にその人物の服装が俺が通う中学の女子の制服であると分かると同時、隣で航太が口を開いた。


「あれ、うちの学校の女子じゃないか?」


航太もそう言うのだから間違いない。

同意しようとした刹那に中学生女子と思しきその姿がこちらへ来ようと向きを変えた瞬間、見えた顔に俺は驚き目を丸めた。


それは、セーラー服に身を包んだ真尋だった。


「司」


真尋は、俺に気が付くと頬を緩めた。

俺はすぐに状況が掴めず反応が遅れる。すると先に航太が尋ねてきた。


「知り合いか?」


こちらへ歩み寄ってくる真尋に視線を向けながら、まずは答えの出しやすいその問いに頷く。

そうこうしてるうちに目の前まで来た真尋が航太に挨拶をすると、航太は心なしかいつもより上擦った声で応えた。

それでも尚、俺は、制服自体は見慣れていながら、馴染みのない姿をした真尋に釘付けのまま。


驚いたんだ、本当に。

真尋が急に大人びて見えた。

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