第14話

「それにしても、お前今まで好きな子とかいなかったのか?」

「ああ」

「一人も?小学校の時も?」

「いない」


即答すると、呆れにも感心にも似た眼差しを向けてくる航太。

何だ、その目は。

拳で肩を小突く。

航太は大袈裟に痛がって笑った。


「でもお前、幼馴染みいるんだろ?ガキの頃から一緒の」

「……ああ」


不意に挙がる話題に一瞬理解が遅れ、間を作る。

幼馴染みといえば、真尋と菊乃のことだろうか。

というか、そうとしか言えないんだが、あの二人に対してそんな意識を持ったことなど一度もなかったから、すぐに結びつかなかった。


「あいつ等はそんなのじゃないよ。小学生だし」

「可愛いのか?」

「さあ…思ったことない。本当にそういうのじゃない」

「ふーん、そんなもんかねぇ…。まあ何にしても、俺は、お前が格好良いとかイケメンとか言われてることが納得いかない訳よ」


締めのような言葉で主張した航太は、溶けかけて指先に垂れそうなアイスを舐める。

そんなことを言われても俺は耳にしたことがないんだからどうしろと言うんだろう。


そう思った時、ふと思い出した。

以前「可愛い」などと言われたことがあるのを。

解せなかったから記憶の片隅に残っていたんだろうか。

せっかく思い出したんだし、俺は取り敢えず訊いてみることにした。


「なあ、航太」

「んー?」

「俺って可愛い?」


アイスの最後の一口を頬張ろうとしていた航太に問えば、口を開けて目を丸め動作を止めるのに合わせて、アイスがボトリと地面に落ちた。


「あー!俺のアイス!ちょ…お前、変なこと訊いてんじゃねぇよ!」

「いや、ちょっと訊いてみたくて」

「ふざけんな!お前が可愛い訳ねぇだろ、気色悪い!」


落としたアイスを指二本だけで摘み上げゴミ箱に捨てに行く航太が、捨て台詞のように吐き捨てる。

正直そこまで言う必要はないのではとも思ったが、なんだか可笑しくなって俺は笑った。


別にそれほどこだわることでもない。

でも、あの日少しなりとも感じた困惑が払拭されたようで、なんだかスッとした。

やはり航太だなと思う。


こんな状態だから、今の俺には恋愛は必要ないということで自分なりに落ち着く。

男の友情に生きるという高尚なものでもなく、ただ今が楽しかった。

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