第12話

その瞳に怯えはない。

それどころか僅かな怒気が見えた。

どうやら航太も俺と同じ気持ちらしい。


「おい、どこ見てんだよ、お前等」

「揃って逃げ出す相談か?」

「情けねぇな。ちゃんと付いてんのかぁ?」


俺達のアイコンタクトを目ざとく見つけた不良達が一層詰め寄る。

そのうちの一人が俺の制服の上から股間を鷲掴みにした時、自分の中で何かが弾けた。

一瞬にして肌が粟立ったのは覚えているが、気が付くと俺はそいつを殴り飛ばしていた。


「気持ちワリーことしてんじゃねぇよ!」


不意を突かれて地面に吹っ飛び頬を押さえている不良に、確かそんな風なことを言ったように思う。

なんとかやり過ごせば解放されたかもしれないものを、引き金を引いたのは俺だった。


そこからはもうめちゃくちゃだった。

当然のごとく乱闘に発展し、喧嘩のしかたなど知らなかった航太も俺も奴等をとにかく殴ったし、殴られた。

いや、殴られたほうが断然多かったと思う。

ひとしきり暴れてボロボロになった頃、隙をついて二人揃って逃げ出した。


校内を逃げ回り、やがてまくことに成功する。

夕暮れ時の校舎の陰に倒れ込んだ時には、二人共ヘトヘトになっていた。


「ははっ、司ひでぇ顔」

「航太こそ」


互いの顔を見れば傷や痣だらけで血が滲み、息も整わないままに笑いが込み上げる。

決して笑える事態ではないのに可笑しくてたまらなくて、俺達は笑った。


眩しい夕日に縁取られた航太の輪郭を見ていたら、コイツとなら何でもできるような気がした。

コイツがいれば怖いものなど何もない。

恐らく互いにそんな思いを抱きながら、肩を貸し合い家路についた。



それ以降、俺達はあの不良共から完全にマークされた。

たまに呼び出しをかけられては喧嘩になり、危うくなったら戦線離脱。

幸い俺達は逃げ足が速くて、捕まらないままに一時休戦を迎える。


そうこうしているうちに徐々に喧嘩に慣れていく。

何より俺達は息が合った。

だからかは分からないが、やがて不良グループを打ち負かすまでそれ程長い時間はかからなかった。


見事不良共を撃退した俺達は、校内で有名になった。

中には怖がられている様子がうかがえたりもしたが、奴等に困らされていた生徒は少なくなかったようで、噂が広まるなり興味や好意を持って接してくる友人が増えていった。


航太は嬉しそうで、俺も満更ではない。

教師側から見れば問題児。

だが、俺達の中坊ライフは充足感に満ちていた。


それが俺達だった。

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