第11話

航太は、とにかく話しやすい奴だった。

最初に感じた人懐っこさやノリの良さは確かに関係しているだろうが、航太にはそれだけではない何かがある。

他の奴等と変わらないように見えて、俺にとっては言葉にできない別の何かが。

本当に、上手く説明できないんだけれど。


そして、夏休みになると、学校からの解放感をこじらせた俺達は髪を染めた。

市販のヘアカラー剤を買ってきて、中途半端は嫌だったから先に脱色をしてから交代で互いの髪を染める。


航太は鮮やかな明るい茶色になったが、俺はそれを通り越して金に近い色になった。

航太は愉快そうに笑い、俺は俺で満更でもない。

俺達はこれを自分達の自己主張とした。


母親からは黒く染め直せと何度も叱られたが、聞く耳を持つつもりはない。

夏休みだけの予定だったから良いだろうという気もあった。


でも、その夏休みが終わる頃には黒に戻すのが惜しくなってしまい、俺達はそのまま新学期を迎えた。

いわゆる「夏休みデビュー」である。


登校すると、その日のうちに職員室へと呼び出された。

生徒指導の教師が明日は黒くして来いと言う。

だが、そこで言うとおりにするくらいなら、最初からこんな髪色で来たりはしない。

何しろ俺達は反抗期真っ盛りだった。


こんな風でいると、目を付けられるのは教師からだけではない。

上級生達も面白く思っていなかったらしく、間もなく別の呼び出しを受けることとなった。


行った先は体育館裏。

いつか漫画で見た光景ではあるが、なるほど理に適っている。

そこは確かに校内でも人目につかない場所。

たとえ大人数でも。俺達二人を待っていたのは六人ほどの不良だった。


「お前等、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「なに髪染めてやがんだよ」


開口一番、不良達は言った。

そんな奴等も金に赤に茶色にメッシュ…人の事を言えないような髪色をしている。

だが、そっちこそなどと言えるような空気ではない。

航太も俺も押し黙っていた。


すると、向こうはますます調子づく一方で、発言しない奴などは後ろでボクシングのスパーリングのような動作を始める。


脅かしだろうか。

それとも殴られるのか。

それだけは嫌だ。

生まれてこの方、人の拳を浴びたことなどない。


「明日黒にしてきますって言えよ」

「言わなきゃどうなるか分かってんだろうな?」


目の前で凄まれる。

眉毛が極力少なめにされているからか迫力は半端ない。

どうしたものかと思い、隣に立っている航太を流し見て様子をうかがう。


すると、ほぼ同時に航太も俺を見た。

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