第3章 青
第10話
第3章【青】
13になる年の春、俺は中学生になった。
入学したのは市立の中学校で、数名の転入生を覗いては二つの小学校の卒業生が共に通うことになるため、およそ半数は知らない顔ぶれ。
入学式の日は教室内に緊張感が漂っていたが、翌日になると皆がそれぞれに相手校出身の生徒達に好奇の目を向け、且つ向けられていた。
俺もそうだった。
元から他校を意識したことがないため俺自身は周囲に対してそれほど強い関心はなかったが、クラスに入った時からずっと見定めるような視線を浴びていて、居心地が良いとは言えない。
ホームルームが始まるまでの間に小学校から仲の良かった奴等と話していた時もそうだった。
何気なく流した視線の先にいる見知らぬ女子と目が合えば、こそこそと話をされる。
寝癖でも付いているのだろうかと片手で髪を弄ると、不意に大きくなった彼女達の声が耳に届いた。
「やだー、可愛い!」
その言葉に、まさに今それが聞こえた耳を疑う。
今、何と言ったか。
俺の空耳でなければ、可愛いなどというような言葉を発されたような気がする。
自分の行動を思い起こしてみても可愛さなど感じられるような部分は微塵もなかったはずなのにもかかわらずだ。
途端にそれ以上聞くことに困惑を覚え再び彼女達に視線を向けられなくなると共に、ホームルーム開始のチャイムが鳴る。
まだ学校のシステムは把握していないが、恐らくこれから担任教師が来るのだろう。
察した皆が席に戻っていくのに合わせ、俺も席に着いた。
その時だった。
前の席にいた奴に声を掛けられたのは。
「なあ、お前って南ヶ丘小?」
またも唐突な展開。
俺は瞠目したが、出身校を問われていると気付いて頷いた。
「やっぱりそうか。俺は第三小。お前の名前、何て読むんだ?」
明るい声で立て続けに尋ねてくるそいつは、短髪で声質を裏切らない人懐っこい笑顔をしている。
先程までの居心地の悪さを感じさせないオーラがあった。
「ランドウ。蘭堂、司」
「ランドー…なんか雅な名前だな。…あ、俺は吉高航太(よしたかこうた)。以後よろしく」
訊くまでもなく名乗ったこの吉高航太という奴は、掲示板に貼られている名入りの座席表を示して言うと、明るいノリと共に俺に手を差し出す。
俺がその名の目視もしてからその手に自分のそれを重ねれば軽い握手が交わされた。
その日から航太と俺は話をするようになった。
授業の合間の休憩時間に始まり、昼休みや下校時間…以前からの友達と過ごす中に航太がいる時間が日ごとに増えていく。
それは航太も同じだったようで、いつの間にか俺達は一日の大半を共にするようになっていった。
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