第7話

七歳。

真尋がガキ大将と喧嘩をした。


真尋と菊乃は当時幼稚園の年長組で、習い事として真尋はバイオリン、菊乃は書道を習っていたが、菊乃はその頃から武道も始めた。

それは菊乃の家が合気道の道場を開いているからこその自然な流れなのだが、それはじきに幼稚園のクラス内でも知れていき、菊乃は皆より一回りほど体の大きいガキ大将のような男の子に虐められるようになってしまった。


俺はその頃にはもう小学生になっていたから詳しくは知らないが、内容は「怪獣」「オトコ女」などという言葉でのからかいが主だったと聞いている。

それでも園児には辛いことだったのだろう。

まだ嫌々道場に通っていたこともあって菊乃はかなりしょんぼりしていたらしい。


そんな時だった。

真尋がそのガキ大将と喧嘩をしたという一報が入り、真尋の母さんが幼稚園に呼び出されていったのは。


事のなりゆきはこうだ。

例のごとく、というと語弊があるが、菊乃がガキ大将グループにからかわれた後に教室で泣いていると、それを見つけた真尋が園庭で遊んでいたガキ大将の元へ一直線に駆け寄っていき、突然彼を突き飛ばしたというのだ。

勿論ガキ大将も黙っておらず、そこから先生達に止められるまで取っ組み合いの喧嘩に発展した。


「菊乃に謝れ!」


真尋はそう叫んだという。


結果、真尋は先生にも真尋の母さんにも叱られてしまった。

それでも真尋は絶対に謝らなかった。

拳を握り、唇を引き結んで、頑としてきかなかった。


そこで頭にきたのは俺だ。

菊乃が虐められ、真尋が戦って痛い思いをし、叱られた(しかけたのは真尋だけれど)。

どうしても許せない。

俺はガキ大将がよく遊んでいた土手へと出向き、圧力をかけた。


「今度菊乃を虐めたら、次は俺がお前を殴る」


確かそんなような事を言ったと思う。

比較的身長の高かった俺はガキ大将の上から物を言う事に成功し、突然の小学生の来襲に驚いたのであろうガキ大将も黙って頷いていた。


その甲斐もあってかは定かでないけれど、その日を境に菊乃への虐めはなくなった。

そして、菊乃は合気道を習う事を嫌がらなくなった。真尋が自分のために戦ってくれたことが嬉しかったのだろう。

菊乃の中で何かが変わったという印象を子どもながらに受けた。



でも、真尋も菊乃も俺も、普段からこうな訳じゃない。

周りの友達のために報復に出たり、友達のお陰で頑張れたりなどということを常日頃からしているのではなかった。


真尋だから。

菊乃だから。

なのである。


俺達は、そんな幼馴染みだった。

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