第6話
そして、俺が六歳になった頃。
真尋が指輪を欲しがった。
指輪といっても玩具の指輪で、プラスチックのカエルが付いた何の変哲もないもの。値段も200円かそこらだったと思う。
どうしてそんなものがそんなに欲しいのかは俺には分からなかったが、駄菓子屋で見つけてからというもの真尋はひたすらにそれを欲しがっていた。
でも、いくら親にねだっても買ってもらえなかった。
理由は覚えていない。
しかし簡単だ。
諸々を考慮して「不要な物」と判断されたんだろう。
真尋は泣いた。
だから俺は尋ねた。
「なんであんなものがほしいの」
「だってかわいいんだもん」
真尋はそう答えた。
五歳の子どもの理由としては十分すぎるくらいの理由である。
俺は真尋の母さんを憎いと思った。
なんで買ってあげないんだ。
こんなに欲しがってるんだから買ってあげればいいじゃないか。
真尋が泣く姿は幼心にも可哀想に映って、大人が駄目なら俺が何とかしてやるという正義感のような使命感のようなものに燃えた。
まず貯金箱を開ける。
しかし六歳児に200円は大金だ。
当然ながら入っていない。
今度は親に金をくれとねだってみた。
これも当然玉砕する。
それで更に火が点いた俺は、自分で作ることにした。
自分の玩具箱を探しに探して見つけたキーホルダーの輪っかの部分と、紙粘土。
紙粘土でカエルだか犬だかクマだか分からないような物を作り、黄緑色の絵の具で色を塗って輪っかにくっつけただけの、お世辞にも可愛いとは言えない代物が出来上がった。
それを贈ると、真尋は大喜びで受け取って、その日からいつもその歪なカエルの指輪をつけてくれるようになった。
でも、やはり子どもの作ったものである。
数日もしないうちにカエルが取れてなくなってしまった。
また真尋は泣いた。
輪っかだけになった無残な指輪を指に嵌めたまま、カエルを落としたらしい公園を探していた。
それでもあんな小さな物は見つからなくて、そのまま日が暮れてしまい帰宅となる。
俺はまた燃えた。
あんな歪な物を大切にしてくれたことの嬉しさもあったと思う。
俺が絶対に見つけてやるんだという使命感は計り知れなくて、翌日公園をしらみ潰しに探した。
天気予報でその日は夕方から雨になると言っていたから、余計に必死になった。
すると、ようやくカエルが見つかった。
それは砂場の砂の中に埋もれていて、掘り返して見つけた時は俺まで涙が出そうになった。
そして、それをすぐさま真尋に届けた。
真尋は、戻ってきたカエルを見るなり嬉しそうに笑った。
何が起きても相変わらず歪なものなのに、大切そうに手の内に包んで、ありがとうと言ってくれた。
もう泣いてはいない。
真尋が笑っている。
それだけで、俺も嬉しかった。
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