第4話

俺はといえば、階段を降りていく足音を聞きながら、木戸から室内へと目を向ける。

そこには、今しがた眺めていたアルバムが尚も置かれていた。


シアトルで荷造りをした時に開くことはなかったそれ。

なにもわざと開けなかった訳ではない。

俺にも離れがたい物事がそれなりにシアトルにあって、そのもの達への感傷で手いっぱいだったからだ。


そう思うのに、雨が降っていたからとか久し振りに昔の話をしたからとかいう言い訳が通じないような揺れを感じたことも否めなくて、俺はアルバムを手にするとベッドを足場にし、押入れの天袋にしまった。


そこはすぐには目の届かない場所であったと引き戸を閉めながら気付く。

思い出と言えるものを意図せずともそんな場所にしまい込んだ事に申し訳なさのような呆れのようなものを覚え、溜め息を漏らしてそのままベッドに身を投げ出した。


大きくなってもずっと一緒にいるんだと信じて疑わなかったという菊乃の言葉が耳に残る。


勿論俺は知っている。

菊乃が俺を責めていた訳ではないという事は。

ただ俺が勝手にそう感じただけだ。

菊乃に非はない。


そう思うのは、自分に責があると思うだけの根拠に心当たりがあるからかもしれなかった。


瞳を閉じれば浮かぶ幼い頃の俺達の姿。

菊乃がいて、真尋がいて、俺がいる。

菊乃が、…真尋が、俺の隣で笑っている。


何度も夢に見たそれをひと度思い出すと、そうなる事が必然であるかのように意識は記憶を辿り始める。


目に入らない場所へとしまっても。

否応なく俺を呼び戻す。

昔へ。



俺達が一緒にいた、あの頃へ―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る