第5話登校日②

しばらく全速力で走っていたが夏の暑さと体力の低下で足が止まる。ガクガクな膝に手を置き体全体で呼吸していると肩を叩かれた。

「おっはよー、久々の親友だぞ!」

「はぁ…、はぁ…、うるせぇよ」

「ひっどー、てかなんでそんな疲れてんの?」

朝からうるさいこいつは、俺の腐れ縁である【東條優心】。産まれた病院も学校も全部一緒の図太い腐れ縁だが、性格は俺とは正反対でお調子者の単純な奴。いつもの絡みに普段なら無視する俺だが今日は朝から調子が狂っているため、つい相手をしてしまう。

「走ったからだよ、はぁ…、しんど」

「へー、走るの嫌いな癖にめずらし、それに俺の相手すんのも!今日はこれから雪かもな?夏なのに!!」

「もう馬鹿言ってねぇで、学校行くぞ」

「ごめんごめん!また走っていくか?」

「行くわけねぇだろ!!」

満足そうにする優心との掛け合いでなくなっていた体力をまた失いながらも優心と2人、同じ学校の生徒で混雑している通学路を歩く。

道の両脇に植えてある木々の葉が風に吹かれ、葉が擦れる音と優心の話し声が耳を通っていく中ふと前を見ると春山の姿がある。

ツインテールにピンクのベストを着て、同じクラスの奴と話しながら登校しているようだ。

(今日放課後会うのか…)

一方的に作られた約束を思い出しながら視線は春山の方にいってしまう。そんな中、春山が少し振り返りばっちり目が合った、だがお互い直ぐに顔を逸らす。

たまたまなのに何故か心臓がバクバクとうるさくなり、足が止まってしまう。

(なんだよ…、これ…)

「おーい、凛太郎ー!早くー!」

俺より少し先に行ってしまった優心の声で我に返り歩き始め、優心に追いつく。

「なんか本当に今日変だぞ?熱中症か?」

俺の顔を覗き込もうとする優心の顔を手で押し返す。

「大丈夫だよ…、心配すんな」

「そかそかー、でも遅刻の心配はした方がいいかも…」

「はぁ??」

「あと5分でチャイム鳴る!」

「くそっ、早く言えよ!また走りじゃねぇか!」

「競走だな!」

自分のせいではあるが今日2回目の全力ダッシュをして校舎に入り、急いで靴を替え階段を駆け上る。優心とは同じクラスなので目的地は一緒、チャイムの音と共に教室に入れたがクラス全員の視線を感じる。

「はぁ…、はぁ…、間に合った?」

「よっしゃー!セーフ!」

「きっつ、まじで無理」

「早く座ろーぜ!」

爽やかな汗をかいている優心の事を睨んだ後息があがったまま、自分の席に座り軽く周りに挨拶した後担任が来るまで休憩しようと机に突っ伏した。

夏休みの話をしているのだろう、教室の中は騒がしい。目を瞑っているからか、耳が冴えてしまい色々な会話が聞こえてくる。

「今日までなにしてた?」

「プールにBBQだな!」

「いいなぁ、俺なんて部活だけだぞ」

「ねぇねぇ、ピアス空けちゃった〜!」

「え〜!!めっちゃ良い、可愛すぎ!!」

「ねぇねぇ、こよりは何してたの?」

ふと聞こえてきた名前に反応してしまい思わず顔を上げると教室の前の方でいつものグループと一緒にいるのに困った顔をした春山がいた。

「えぇ〜、別になんもしてないよ…

ずーっと寝てばっか、あはは」

「そっかぁ、ほらこよりとあんま集まれてなかったからさ」

「あー、そーだね、ごめんごめん!!」

「もう本当に思ってんの〜?

まぁ、いいや、てかさ新作のコスメが…」

話が春山から逸れたようであからさまにほっとした顔をしている。

その後も何となく春山の事を目で追うと愛想笑いしていたりであまり楽しそうではない。

(なんか思ってた春山じゃない?)

違和感を感じていると担任が入ってきた。

「おーい、うるさいぞー

全員居るな、じゃあHRしたら終わりだから少しだけ大人しくしてろー」

担任が連絡事項を淡々と伝えていき、あっという間にHRは終わってしまった。

「はい、じゃー、今日はお疲れ、また二学期な」

「「はーい」」

帰る支度をして皆廊下に出ていく、俺も同様に出ようと思ったら優心が来た。

「一緒に帰ろーぜ」

今日ほどその誘いを望んだ日はないが、

「あー、今日は無理だな…」

「えぇ、ラーメン食べようと思ってたのに」

「また今度な」

「約束だぞー!」

「はいはい」

俺に断られた優心はそのまま教室から出て行った。俺も帰りたい気持ちは山々だが、春山からの呼び出しがあるため重たい足を引きずりながら校舎裏へ向かう。

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