第2話 笹原家

いつもより早いリズムで歩いた瑠璃は家の玄関に着きドアを開けた瞬間、靴を脱ぎ捨てダッシュする。

「ママー、きいてきいて!!」

散らかった靴を綺麗に並べ、一旦玄関の床に座る。

(はぁ…、今日はもう疲れた。)

リビングからは瑠璃の無邪気な声が聞こえ、今日の出来事を母親に報告しているみたいだが

「おかえりなさい、お兄ちゃんと仲良くできたかしら?」

「んー、にーにとねロリポップのおもちゃ見たけど、にーにが女の子な...」

1番言ってほしくない所を言おうとしているので急いで立ち上がり、リビングに向かう。

「はぁ、はぁ、瑠璃それはダメだぞ!!」

焦る俺の顔をニヤニヤしながら見たあと瑠璃は俺のストップを聞かず母親に全て伝えてしまった。

「ふふ、にーにがね女の子泣かせてた!」

今までソファに座り、にこやかな表情で瑠璃の話を聞いていた母【笹原雪子】は俺や瑠璃と同じ黒髪に少し細めのめから薄紫色の瞳が般若の様な表情をして俺の事を見てくる。俺は背筋が凍ってしまい思わず顔を背けた。そんな俺と母さんに挟まれている瑠璃は1人上機嫌だ。

「ママにも言えたから、おてて洗っておやつなの!」

そう言ってリビングから飛び出して行く瑠璃を目で追っていると、母さんの声で体がびくつく。

「あら、凛太郎。さっきの瑠璃の話は本当なのかしら?」

母さんに視線を戻し直立する。

「ははっ、いやー、本当もなにも…」

「はぁ、素直に言った方がいいわよ」

「はい、泣かせてしまいました!」

強制自白ではあるがここで誤魔化すともっと酷くなるので素直に言う。俺の返答を聞いた母さんはソファから立ち上がり、ゆっくり近づいて来る。

怖すぎて目を閉じているとゲンコツされたのか頭に痛みを感じ、うっすらと目を開くと母さんの顔が目の前にあった。

「笹原家の家訓、忘れた訳ではないのよね?」

「は、はいーー!!忘れる訳ないです。

ただあの今回のは俺も被害者というか…」

「お黙り!!」

「すみません」

母さんの叱りの声にビビりながら、その場で正座し謝罪する。俺の家、笹原家には家訓が存在しそれを破ると母【雪子】から罰を受ける事になっている。

そして今回俺は笹原家家訓第3条、

【どんな理由でも女の子を泣かせてはいけない】

に違反した事を瑠璃にバラされてしまったのでこの有様だ。久々のお叱りに体を縮めているとため息混じりの声が頭上から聞こえる。

「もう、次もしその女の子に会えたらちゃんと謝罪しなさい」

顔を上げると母さんの顔は般若ではなくなっており、いつものにこやかな表情だった。

「とりあえず瑠璃の面倒ありがとね、ほらおやつ食べましょ」

「うん、家訓破ってすみませんでした。

おやつはしっかり頂きます」

「よろしい。でもおやつは瑠璃と半分こよ?」

「うぃー」

さっきまでの殺伐とした雰囲気は消え、長い手洗いを済ませた瑠璃がリビングに戻ってきた。

「おやつなにー??」

きっと俺と母さんの空気を読んでお叱りが終わるまで、待っていたのだろう。流石俺の妹だ、今回は嵌められたけれど。

いつもの家の中に戻った時、数時間前にショッピングモールで会った春山の事をふと思い出す。

(次の登校日で謝るか…)

「にーに、はやくはやく!!」

ソファに座り目の前にあるおやつを見ながら俺の事を呼ぶ声が聞こえ、急いで向かった。

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