第60話

栞は、先月で十七歳になったばかりだというのに、非常に女グセの悪い幼なじみに対して少なからず憤りを感じていた。


 あまり認めたくはないのだが、彰は見た目だけで判断すると、きっとかなり『いい男』の部類に入るのだろう。


 実際、学校で彰を知る女生徒のほとんどが憧れ以上の念を抱いているし、告白してくる者も少なくない。今時、わざわざラブレターやプレゼントを持ってくる他校の女子生徒までいるほどだった。


 しかし、彰は誰と付き合っても三ヵ月ともたない。


 飽きたと言わんばかりに、一方的に別れ話を切り出し、相手が納得しようがしていまいが、さっさと次の相手に乗り換えてしまう。そうした付き合いを、むしろ楽しんでいるかのようにも見えた。


「あんたねえ…」


 栞が言った。


「そのうち、マジで背中から刺されるわよ」

「別に、それでもいいんじゃねえ?」


 彰は、さらっと答えた。


「せっかく、親がこんないい顔に生んでくれたんだ。感謝ついでに、死ぬまで最大限に利用してやるよ。じゃあな…」


 その言葉に一瞬戸惑い、わずかに身体を硬直させてしまった栞を残して、彰は再び背を向けて歩きだした。


 二メートルほど彰が遠ざかったところで、栞ははっと我に返った。

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