第59話

「何の用よ?俺、急いでるんですけど」


 彰が小さく溜め息をつき、栞をちらりと見下ろした。栞も負けじと、彰を低い位置から見上げた。


「『何の用よ?』じゃない!あんた、今日は掃除当番でしょ。またサボる気?」

「今日はパス、先約があるんでね」

「…なぁ~にが先約よ!」


 と、栞は持っていたほうきを彰に押し付けるように渡した。


「また女の子と会うんでしょ!今度は誰?この前見かけた、隣町の女子校の子?」

「バァ~カ。あの子とは、とっくに終わったよ」


 顔を突き出しながら、彰はひょうひょうと言い放った。


「もうガキと付き合ってられるかよ。今度は女子大生…結構美人だし、おまけにDカップだってよ」

「また一方的に別れ話切り出して、すぐ違う人に手を出したんだ?最っ低…」

「最低で結構。つーか、お前もちょっとは化粧くらいしたら?せっかくの奥二重が全くもってムダ!」


 彰は渡されたほうきを突き返し、その空いた右手の指で軽く栞の額をつついてから、ケラケラと笑った。

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