(4)[58~72P]
第58話
「…きら、彰!ちょっと待ちなさいよ!」
平成十八年の六月初旬。
この日、空模様はどんよりとした黒雲で覆われていた。夕方頃から雨になるだろうという天気予報は、どうやら当たりのようだった。
そんな空の様子を少し憂いながら、ほうきを持った美作 栞が、放課後のチャイムが鳴り響く校舎の廊下を走っている。
栞の足は下校しようとしている生徒達の波を抜け、前方を呑気に歩いている男子に追い付こうと必死だった。
「ちょっと、彰ってば!」
栞は、やっとの思いで男子の肩を捕まえた。中学の頃と違って、ずいぶんと背が伸び、がっちりとたくましくなっていた事に一瞬驚いた。
「…何だよ、栞ぃ。うるせえなぁ」
肩を掴まれた男子――蓮井 彰が面倒臭そうに返事しながら、くるりと振り返った。
全体を茶色に染めた髪を右手で掻き、左手で学生鞄を持て余すように担いでいる。頬にはやっと見えるぐらいの小さなにきびができていた。
すぐ横で、少し開いたままになっていた廊下の窓から静かな風が吹き込み、それが彰の茶色の髪を優しく撫でた。ふわりと浮かんだ柔らかい髪から、わずかに整髪料の匂いが漂ってくる。
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