第57話
栞はゆっくりと首を横に振った。前髪の隙間からちらりと見えたその瞳は、涙ぐんでいた。
「彰には、もう前を向くだけの気力が残ってないの。自分だけ生き残ってしまった事が、彰には許せない事なの。お願いだから、これ以上あいつを苦しめないで。これ以上、皆であいつを責めないでよぉ…」
栞は克彦から静かに顔を逸らして、自分の足元で幸せそうに缶詰の中身を食べ続けている猫を見た。夢中で食べているその猫が、とても愛しいとさえ思えた。
栞は猫の姿をぼんやりと見つめながら、あの頃の事を思い出していた。
この白い猫に『レオ』と名付けた十歳の少女と、十七歳になったばかりの蓮井 彰の事を思い出していた。
それはまだ、『幸せ』だと言えた頃の事だった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます