第54話
少し化粧をしているな、と克彦は思った。
髪は染めていないので日本人らしい綺麗なセミロングの黒髪だが、よく見てみると、頬には薄いファンデーション、眉にはマスカラを軽く重ねていて、二重の瞼によく映えている。小さな唇はラメ入りのグロスできらりと輝いていた。
男の克彦にはよく分からないが、上品な感じの香水の香りは妻が使っているものとよく似ていて、きっとそれなりに値が付くものだろう。
将来、福祉の仕事に就く事を目標にしているという栞は、勉強の一貫として『たんぽぽの園』でアルバイトをしていると圭子から聞いていた。
まさか給金は全部、化粧品代に使われているのではないかと案じていると、それに気付いた栞は克彦に問われる前に言った。
「…化粧くらいやらないと、ストレスが溜まるのよ。園長先生は身体を壊しちゃうし、彰は彰で相変わらずみたいだし。あんたは話してすっきりかもしれないけど、こっちはたまんないんだから!」
栞は抱いていた猫を地面に下ろし、先ほどの缶詰を今度はゆっくりと差し出した。
臆病な猫は出された缶詰を警戒した目で見つめていたが、やがてそれが自分の食事だと理解すると、安心したかのようにぱくついた。
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