第51話
「でも」
ふいに、圭子が言葉を発した。
「世間やマスコミって、ずいぶんと自分勝手なものなんですね」
「え…?」
「事件当時、散々私達の周りをうろついては好き放題騒ぎ立てたり、事件には関係ない事まで持ち出してきたり…でも、ほんの二ヵ月ほどで、まるで何事もなかったみたいに静かになって…」
「橋本先生…」
「『あの事件』は、実際にあった事なのに…。彰君は自分の身体も心も傷付けて苦しんでいるのに、どうして無責任に忘れてしまえるんでしょうか?どうして、また同じような事が繰り返されて…」
その後は、もう言葉にならなかった。
持っていたビニール袋を床に落とし、圭子は両手で顔を覆った。指の隙間から、大粒の涙がいくつも滴り落ちていた。
†
『たんぽぽの園』を出て、ゆっくりと坂道を下り切った克彦は、気持ちを入れ直して、来た道とは逆方向に歩きだした。圭子や小林園長の他に、もう一人会っておきたい人間がいたのだが、不在だったのだ。
「…栞ちゃんなら、この時間だと公園にいると思います。もうすぐ餌の時間ですから」
『たんぽぽの園』を出る時に聞いた圭子の言葉を頼りに、克彦は住宅街の中にある公園を目指して歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます