第50話
何回かの訪問で、そんな彼女の癖を充分理解した克彦だったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「…昨日、蓮井君がまた…、自傷、行為を…」
「そう、ですか…」
それまで必死に浮かべていた笑みが瞬時に消え、圭子の表情は重く沈んだ。この瞬間が、克彦は最も嫌だった。
「食堂のスプーンを持ち出して、消灯時に腕を突き刺しました。幸い、出血の割には傷が浅かったので、二週間もあれば…」
「すみません、彰君がご迷惑をおかけして…」
圭子が深々と頭を下げる。克彦は慌てて、言葉を詰まらせた。
「い、いや…、先生が謝る事じゃありません。我々がしっかり蓮井君を見ていなかった為ですので。頭を下げなければいけないのは、こっちの方です」
「…園長には、私の方から伝えておきます。『あの事件』以来、少しお疲れになっているみたいで、今日はまだ病院から帰ってきていませんので」
『あの事件』がマスコミなどでセンセーショナルに報道されるやいなや、小林園長が経営する『たんぽぽの園』の周囲は報道陣でごった返しになった。
昼夜問わず、記者達はインターホンや電話を鳴らし、誰かが一歩外に出ようものなら、集中的に取材という名の攻撃を仕掛けてきた。
特にその犠牲となったのが小林園長であり、今では少し体調を崩して通院生活を送っているらしかった。
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