第49話
「いつも差し入れを頂いて…本当に、ありがとうございます」
『たんぽぽの園』の事務室で、受け取ったビニール袋の中身を覗き込むような格好をしたまま、橋本圭子が明るい声で言った。その声に、克彦は若干の照れを顔に浮かばせながら、「いいんですよ」と答えた。
「自分が勝手に持ってきているだけです。お礼を言われるような事では…それどころか加減が分からないものですから、こんなにたくさんだと逆に迷惑だったりしませんか?」
「そんな事ありませんわ。子供達、とても嬉しそうに食べてくれますから」
そう言って、圭子は笑った。
克彦は昨夜の彰の騒ぎを話さなければならないのかと思うと、ひどく心苦しかった。
自分が『たんぽぽの園』を訪ねる理由はそれだけしかないのだし、いくら頼まれている事だからといっても、やはり心地よいものではない。
圭子も、克彦の口から紡ぎ出される次の言葉が何なのかを承知しているだけに、敢えて懸命に笑っているのだ。できるだけ、冷静にそれを受け止められるように…。
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