第48話

「こんにちは」


 克彦が会釈してから近寄ると、主人は目の前の林檎の山から一つ掴み取り、それを掲げて見せる。


「今日も良い奴が届いてるよ、どうだい?おまけしとくよ」


 この主人の愛想の良い表情を見ると、どうにも勝てる気がしない。元々、何か土産を買うつもりだったし、断る理由はない。


「じゃあ、その林檎をいつもの数で」

「あいよ、毎度あり~!」


 主人は嬉しそうな声をあげながら、林檎を大きめのビニール袋へ次々と詰め込んだ。


 支払いを済ませた後、林檎でパンパンに膨れ上がったビニール袋を両手に一つずつ持って、克彦は再び歩きだした。


 商店街を突き抜け、その脇道に並ぶ軒並みの美しい家々の前のアスファルトを無心に進む。


 やがてアスファルトは緩やかな傾斜が続く幅の狭い坂道となり、それをまっすぐ登っていくと、約十分後、目の前に鉄の門扉が見えた。


 門扉の横には大きな木の看板が掲げられており、墨で『児童養護施設 たんぽぽの園』と力強い文字が浮かんでいた。

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