第44話

「どうも、お久しぶりです」


 軽く会釈をしてから、克彦は切符のシワを伸ばしてもう一度改札口に通してみた。頑固だった改札口はようやく切符を取り込み、克彦を通してくれた。


「今日はもう」


 自分の前に立った克彦を見上げながら、近藤は嫌味ありげに言った。


「俺は帰るんでな。署に行っても、誰も九○二番の事なんか喋っちゃくれねえぞ」

「今日はそちらに伺うつもりじゃないんです。蓮井の家に行こうと思いまして」

「ふん。あいつ、またやりやがったのか。懲りねえ奴だ」


 と、近藤は呆れた声を出しながら、自分の首筋をなぞるように指を動かした。克彦はそれが面白くなく、露骨にむっとした表情を見せた。


「やめて下さい、蓮井をそんなふうに言うのは。仮にもあいつの事件は、あなたが担当したんでしょう?」

「ああ。今でも現場検証に行った時の事が忘れられねえよ。あいつ、本当に十七歳か?」

「もう、十九ですよ」

「揚げ足取りはいいんだよ」


 近藤は、克彦から少し目を逸らした。大ざっぱに着込んだグレーの上着の内ポケットから煙草とライターを取り出し、その一本に火を点けて深々と煙を吸い込んだ。

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