第41話

それを知ってか知らずか、克彦は立ち上がりながら「まあ、そう言うなよ」と再び笑った。


「俺がしてやれる事なんざ、たかが知れてる。俺はほんの少しでも、あいつらの更生に役立てれば、それでいいんだよ」

「…稔君の、為に?」


 杏子のぼそりとした声に、一瞬、克彦の身体がぴくりと反応した。


「それが、稔君の為にもなるの…?」


 克彦は、自分の顔をじっと見つめてくる妻への答えに、少し戸惑った。


 ふと、妻の後方に目をやると、奥のリビングの中央にある小さなテーブルが映った。


 テーブルの上には小さな写真立てが置かれてあり、それには兄弟と思しき二人の幼い少年が白い歯を見せて笑っている写真が収められていた。


「ああ…」


 克彦は、その写真立てを見つめながら頷いた。


「それもあるかもな。でも、今はあいつらの為に動いてるんだ。別に罪滅ぼしでやってる訳じゃないよ」


 克彦は、自分よりも十センチ以上背の低い妻の頭に手をやり、優しく撫でる。杏子はその手の温もりに、そっとまぶたを閉じた。

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