(3)[40~57P]

第40話

「…出かけるの?」


 夜勤明けから帰り、遅い朝食を慌ただしく平らげた後、部屋の玄関先に立とうとした夫の背中越しに、高崎杏子が声をかけた。


「ああ。ちょっと二、三時間ほどな」


 夫の高崎克彦が肩越しに振り返り、ちょっと困ったように笑った。


 杏子は呆れて、ふうっと溜め息を漏らした。


 高校時代から付き合い始め、二年前にめでたく結婚したものの、この男の中身は昔から少しも変わっていない。


 十代の頃から趣味も仕事も人一倍真面目に取り組み、手を抜くという事を知らないのだ。


「せっかく明日までお休みなんだから、少しは身体を休めなさいよ」


 玄関に座り込んで、靴紐を結び直す克彦の背中に向かって言う。


「心身共に厳しい仕事に就いているくせに、お休みの時まで動く事ないでしょうに…」


 杏子は、克彦の仕事の内容について触れた事はなかった。


 そもそも、少年刑務所に勤める刑務官が、それが例え家族であろうとも、仕事内容や収容されている少年のプライバシーなどを漏らす事はタブーとされているのだ。


 しかし、克彦の事を誰よりも理解していると自負する杏子には、読書以外に何の趣味も持たない夫が休日に慌ただしく出かけるという事がどういう事なのか、大体想像がついていた。

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