第38話

「~~~~~っ、~~~~~っ!」

「落ち着け、九○二番!暴れるなっ!」

「ええい、個室に戻せ!処分は後で考える!」


 押さえ付けられていた食卓から無理矢理立たされる間も彰は喚き続けていたが、自分自身、何を喚いていたのか覚えていなかった。ただ、心の底から湧き上がる感情をどうしても抑えきれなかった。


 両脇を抱えられ、引きずられるように食堂のドアを出た瞬間、自分の担当の、あの若い刑務官と鉢合わせになった。制服の胸に『高崎』という名札を付けていた。


「…大丈夫か、“蓮井”!」


 息を切らせた若い刑務官は開口一番、彰の首筋を心配そうに見つめながらそう言った。


 彰は驚いた。自分を『名前』で呼ぶ刑務官を初めて見たのである。それが嬉しかったのか、安心したのかは自分でも分からなかったが、彰はぼそりと答えた。


「…死にたいんだよ。何で俺だけ生きてんだよ。あいつらは、皆、死んだのに…!」



 かまされたくつわの端から、自嘲気味の溜め息が漏れた。初めて高崎刑務官と口を利いた時の事を思い出し、何だか少し懐かしいような気分だった。

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