第35話

シャワールームに連れていかれると、衣服を脱ぐように言われた。


 下着姿になると、着ていた開襟シャツとGパンを取り上げられ、その場で散髪が始まった。


 容赦なく電動バリカンが頭にあてがわれ、自慢だった茶髪が次々と刈られていった。


『…彰兄ちゃんの髪、綺麗な栗色だねぇ!』


 ふいに、あの頃、そう言って自分の髪をうらやましげに見つめていた少女の笑顔と声が脳裏に浮かんだ。反射的に、小さく呟く。


「…結真…」

「ん?何か言ったか?」


 自分の髪を刈っているいかつい顔の刑務官が、訝しそうに彰の顔を覗く。彰は首を横に振っただけで、何も答えなかった。


 散髪の後、シャワーを浴びる事が許され、終わった途端に灰色の上下服を渡された。


 今日からこれを着て生活する事になる――それを見つめる彰の瞳に、生気は宿っていなかった。


 この後で通された面接室で自分の担当となる若い刑務官を紹介された時も、


(何だ、門の所にいた奴じゃんか…)


 そう、思っただけであった。

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