第30話

午前九時。事務棟で昨夜の出来事を報告書にまとめ、清水看守長に提出した克彦は、昼勤の同僚達への引き継ぎ業務を済ませてから帰路に着いた。


 傷の手当てを済ませた彰は、結局、謹慎五日の処分を受けた。


 この少年刑務所での『謹慎』とは、懲罰房と呼ばれる二畳ほどの狭い部屋に入れられ、睡眠時と排泄時、そして食事の時間以外は、ずっと正座を強いられるという過酷なものだ。


 謹慎処分を受けた少年は数日間、私語は一切許されず、ひたすら壁を睨み付けながら座り続ける事になる。


 しかも彰のように自傷癖のある者に対しては、舌を噛み切る恐れもあるので、口に自殺防止用のくつわをはめる事もある。


 …今頃、彰もくつわをはめさせられ、辛く孤独な戦いに向き合っている事だろう。


 彰が自傷騒ぎを起こしたのは、克彦が覚えているだけでもう五回目だった。


 初めての騒ぎは、彰が収監されてからわずか三日目の朝の事で、食事中にコップを割り、その破片で頸動脈を傷付けようとしたのだ。あまりに突発的に起こったので、その時の事を克彦ははっきりと覚えている。

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