第27話

「どうした、高崎?」


 克彦の素っ頓狂な反応を訝しく思ったのだろう、清水看守長が声をかける。


「いえ、何でもありません」


 克彦が首を横に振ると、看守長は大きく溜め息を吐いた後、分厚いファイルを差し出しながら言った。


「蓮井 彰。一週間ほど個室で過ごさせてから、九○二号室に収監する。詳しい罪状、経歴などはこのファイルに記してあるから、よく把握しておくようにな。…九○二番」


 清水看守長が少年を振り返って、『番号』で呼んだ。少年はそれがかなり不満らしく、苛立ちが混ざった表情で「はい」と低く答えた。


「彼が担当刑務官の高崎だ。分からない事があれば、何でも彼に聞くといい。ちゃんと規則を守れば、五年と三ヵ月で出られる。いや、もっと早く出られる場合もある。とにかく、真面目にやるんだな」

「…はい…」


 少年は、再び低い声で答えた。


(五年と三ヵ月…?)


 克彦は、その年月の長さに驚きを隠せなかった。


 一体、何の罪を犯せば、これほど長い収容期間を強いられるのだろうか。


 渡された分厚いファイルを脇に抱えながら、克彦はじっと少年――蓮井 彰の顔を見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る