第24話

九○二号室のドアを出る際、清水看守長が小さな声で克彦を呼び止めた。


「これ以上の騒ぎになると、もう上が黙っていないぞ。もしかしたら、医療刑務所への移送を考えてくるかもしれん」

「分かってます…」

「充分に言って聞かせろ。こんな事を繰り返しても、決してそいつの為にはならんのだからな」

「はい…」



 克彦が九○二番の少年――蓮井 彰と出会ったのは、この日より九ヵ月と十八日前の早朝の事だった。


 その日、克彦は住宅地よりやや離れた県郊外の少年刑務所の門扉の前で緊張気味に立ち尽くしながら、移送されてくる少年達を待っていた。


 そのうちの二人、あるいは三人ほどを自分一人の責任で直接、担当・指導していく事になるのだ。


 刑務官となって三年目。初めて担当を任される事になって、前の晩は不安と緊張でほとんど眠れなかった。


 やがて、朝靄の中から車のエンジン音が聞こえてきた。克彦の身体はぴしゃりと堅くなり、その場にいた同僚達は思わず苦笑した。


「おい。今からそんなんだと、これから先がもたないぞ?」

「…分かってるよ!」

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