第23話

「何てツラをしてるんだ…」


 口の両端だけを小さく持ち上げてわずかに笑うと、克彦は少年を諭すように優しい口調で言った。


「もう大丈夫だ。今から医務室に行くぞ、いいな…?」

「…高崎、せんせ…ぇ…?」


 少年がゆっくりと克彦の名を呼んだと同時に、カチャリ、と何かが床に落ちた音が聞こえた。


 克彦や他の刑務官達が音のした方向に目を向けると、そこには食堂に置かれている食事用の銀のスプーンがあった。取っ手から先の部分まで、赤い血で染まっている。


 克彦は驚いて、少年の押さえ付けられた両腕を見た。


 やはりそうだった。彼の両腕はスプーンの先で何度も刺し続けたのだろう、無数の傷から新しい血液が溢れだしていた。


「バカ野郎が…」


 呟きながら、克彦はポケットからハンカチを取り出し、それを二つに引き裂いて少年の両腕に巻き付けた。


 それから少年を組み敷いていた仲間に「大丈夫ですから」と声をかけて離れさせると、少年の肩を担いでゆっくりと立ち上がった。

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