第22話
「何だ、高崎」
「蓮井…いえ、九○二番は混乱しています。気分が落ち着いてからにしてやって下さい。自分が医務室まで連れていきます」
「また、お前が面倒を買うって言うのか?」
清水看守長は、克彦の顔をじろりと見た。
確かに、仮眠中にも関わらず克彦を手伝いに呼んだのは、九○二番が暴れる度に、この男が役に立っていたからだ。
他の刑務官や自分には反抗的な態度が目立つ九○二番だが、何故か克彦にだけは心を開いているように見えた。
「…分かった、連れていけ」
どちらにせよ、この状況では克彦の意見を通す以外に、この場が収まる事はないだろう。
立場上、はっきりとそれが言えないもどかしさも手伝ってか、清水看守長はさらに野太い声でそう言うと、顎で九○二号室をしゃくってみせた。
「ありがとうございます」とていねいに頭を下げてから、克彦は九○二号室へと入った。仲間達に押さえられている少年の元へと歩み寄り、静かに腰を下ろす。
「蓮井、俺だ。高崎だ」
少年の耳に顔を近付け、克彦は小さな声で囁いた。それに気付いた少年は、はっとした様子でその顔を克彦に向ける。汗と涙で、ぐしゃぐしゃの表情をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます