第22話

「何だ、高崎」

「蓮井…いえ、九○二番は混乱しています。気分が落ち着いてからにしてやって下さい。自分が医務室まで連れていきます」

「また、お前が面倒を買うって言うのか?」


 清水看守長は、克彦の顔をじろりと見た。


 確かに、仮眠中にも関わらず克彦を手伝いに呼んだのは、九○二番が暴れる度に、この男が役に立っていたからだ。


 他の刑務官や自分には反抗的な態度が目立つ九○二番だが、何故か克彦にだけは心を開いているように見えた。


「…分かった、連れていけ」


 どちらにせよ、この状況では克彦の意見を通す以外に、この場が収まる事はないだろう。


 立場上、はっきりとそれが言えないもどかしさも手伝ってか、清水看守長はさらに野太い声でそう言うと、顎で九○二号室をしゃくってみせた。


 「ありがとうございます」とていねいに頭を下げてから、克彦は九○二号室へと入った。仲間達に押さえられている少年の元へと歩み寄り、静かに腰を下ろす。


「蓮井、俺だ。高崎だ」


 少年の耳に顔を近付け、克彦は小さな声で囁いた。それに気付いた少年は、はっとした様子でその顔を克彦に向ける。汗と涙で、ぐしゃぐしゃの表情をしていた。

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