第21話

ここでは清水看守長だけでなく、全ての刑務官が彼らを名前で呼ぶ事はない。


 彼らを収監・監視・指導する立場の人間が親密な感情をその心に抱かせない為と、彼らに自分自身の立場をより良く理解させる為である。


 ここの場合、部屋の番号で彼らを識別しており、今、暴れている少年がいるこの部屋は『九○二号室』なのである。


「~~~~~~~~っ!」


 少年の声はもはや喚きとなっており、何を口走っているのかよく分からなかった。ただ、教官達の重苦しい束縛から逃れようと、その身を懸命にばたつかせ、必死にもがいていた。


「九○二番、謹慎三日!」


 なおも暴れ続ける少年に対し、ついに清水看守長が決定を言い渡した。しかし、その声が全く耳に入っていない少年は叫んだ。


「離せ、離せよ!俺の事なんかほっとけよ!どけよ!どけったら、クソ看守!」

「お前、何て口を…!謹慎五日!」

「…待って下さい、清水看守長!」


 少年の暴れる姿と、重くなっていく決定に耐えかね、克彦が清水看守長の前に立ちはだかった。

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