第20話

ほうっと、清水看守長の口から小さく息が漏れる音を克彦は聞き逃さなかった。


 恐らく、上司も今の自分と同じ事を考えているに違いなかった。これ以上、「あいつ」の事で騒ぎや噂が広がるのは何とか避けたいのだろう、と…。


 再び小走りになった二人は、廊下の突き当たりまでやってきた。


 洗面台と便所へと続く入り口の手前にある開きっぱなしのドアの前に立つと、三、四人の刑務官が懸命に力を込めて、一人の少年を押さえ付けている様子が見えた。


「暴れるな、おとなしくしろっ!」

「持っている物を渡せ!」

「おい、足も押さえろっ!絶対に離すなよ!」


 仲間達は声を荒げ、汗だくになりながら少年を押さえ付けていた。


 彼らの身体の合間から、縞模様のパジャマを着た少年が悔しそうにもがいているのが克彦の目に映った。


「蓮井…」


 克彦が少年の名を呼び、駆け寄ろうとした。しかし、それを清水看守長の野太い声が遮った。


「九○二番、静かにしろっ!でないと、謹慎処分にするぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る