第19話

三階の間取りは、非常に細長くて奥深い。


 廊下の突き当たりには洗面台と便所が連なって設けられているが、そこに行くまでの道のりには無数のドアがある。


 そのドアの一つ一つには透明のガラスがはめ込まれており、そこから中が見えるようになっていた。


 克彦は清水看守長と小走りで廊下を進む中、そのガラス一枚一枚に目を移してみた。


 やはり相当な騒ぎになっているのだろう、ドアの向こうの部屋にいるほとんどの者がそれを聞き付け、起きだしていた。


 眠い目を擦っている者、「またか?」と呆れているような表情を浮かべる者、ここに来て日が浅い為に驚きを顕にしている者など様々だが、窓ガラスにぴったりと顔を貼りつけ、騒ぎになっている方向へ必死に目を向けようと努力していた。


「こら、お前ら!」


 一度歩を止めた清水看守長が、彼らに向かって一喝した。


「消灯時間はとっくに過ぎとるんだぞ!早く寝ろ、懲罰房に送られたいのか!」


 懲罰房という言葉に恐れをなしたのか、彼らはすぐに窓ガラスから離れて、部屋の中の布団に潜り込んでいった。

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