第13話

(二十代の、前半くらいか…?)


 隊長がそう思った瞬間だった。そのTシャツの男がこちらに向かってゆっくりと振り向いたのは。


「あんたらさ、少し静かにできねえか…?」


 隊長のみならず、その場にいた全員が驚愕で息を飲んだ。


「こいつさ、やっと静かに眠れたんだよ…」


 そんな、バカな…。


 隊長は、自分の背筋を戦慄が駆け抜けていくのを実感していた。情けない事に足が震え、二、三歩ほどふらついた。


 こんな事が、こんな事があっていいのか?本当に、この男が犯人なのか?


「見ろよ。結真の奴、可愛い顔して寝てるだろ…?」


 男は座り込んだまま、ゆっくりと自分を取り囲んでいる人間達を一瞥した。その顔も飛び散った鮮血で赤く染まっていた。


「だから、起こしたくないんだ。静かにしてくれよ…」


 隊長は、どうして殺された中年男が『あのクソガキ』と言い遺したのか、やっと理解する事ができた。

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