第9話

しかし男は、懸命に口を動かしていた。


 苦しみの中、血に染まった自らの手を隊長の肩口へと伸ばし、力なく握り締める。その目は隊長を見据え、何かを訴えようとしていた。


「どうした?誰にやられたんだ!」


 隊長は声の限りに叫んだ。この男の最期の言葉を聞き届けなければならぬ、それが今の自分がしてやれる唯一の事なのだ。


「あ、あ…」


 男の声は、どんどん聞き取りにくくなっていく。隊長は右耳を男の口元に運び、その声に集中した。


「…あ、あの…ク、ソガ…キ…ィ…」


 搾り出すように呪いの言葉を吐き出した男の口から、短く息が漏れた音が聞こえた。


 それを確認した隊長は悲しく瞳を閉じると、自分の肩口を掴んだままの男の手をゆっくりと外し、そっと立ち上がった。


 男は白目を向き、だらりと舌を口の端から垂れ下がらせ、その顔は血の気が失せていた。たった今、苦しみ抜いた末に死んだのだ。


 一瞬、十六人の男達は沈黙した。


 一体、誰がこの男女を殺したのだろうか…。


 様々な思考が彼らの心を巡っていく中、隊長の頭脳は素早く回転を始めていた。

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