第8話

そして、そのソファの隅で、一人の中年男が背中を預けるような格好で力なく倒れていた。


 その全身からはとめどなく血が流れており、トランクス以外、何も身に纏っていなかった。そんな身体が、ほんのわずかに動いたのだ。


「…う、うぅ…」


 男が、か細い声で呻いた。


 まだ生きている。そう確信した隊長は、すぐさま男の元へと駆け寄った。


「おい、しっかりしろ!一体、何があったんだ!」


 隊長は男の側に座り込み、必死に叫んだ。


 しかし、上半身裸の彼の胸元を見た時、一縷の希望は絶望に変わった。


 男の胸元にも無数の刺し傷が見られ、その出血量から考えると相当な深手と見受けられた。


「隊長、すぐに救急車を…!」


 今度は共に駆け寄った部下達の一人が提案したが、隊長はそれに応える事ができなかった。


 これは致命傷だ。もう助からない、と…。


「あ、あ…っ…」


 男は口をパクパクと動かし、必死に空気を吸い込もうとしていたが、胸元の傷からそれが逃げていく。


 傷は肺にまで達しているのだろう、その表情は苦悶で満ち溢れていた。

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