第5話

その他の血痕は衝突したかのように飛び散っていたり、水溜まりを作っていたりしているのだが、『そこ』だけがまるで大きな何かを引きずっていったかのように、太く長い帯状の形で階段の方まで続いている。


 さらによく見てみると、真っ赤な人間の手形がその周囲に点々と残っていた。


 まるで、誰かが俯せの状態で、その身を引きずっていったかのような…。


 彼らは血痕の跡を追う形で、ゆっくりとその先へ視線を伸ばしてみた。そして、全員の視線が階段の下に集中した時、心の内の緊張感が一気に高まった。


 …人間の足が見えた。薄暗い空間の中、人間の二本の足が伸び切った形で、こちらに向かって突き出すようにそこにあった。


「くそっ!」


 隊長は短く言葉を吐き、急いで階段まで駆け寄った。武装警官達も後に続こうとしたが、隊長が片手を大きく振って制した為、その場に留まった。


 隊長は、必要以上に現場を荒らさずに済んだ事に一瞬ほっとしたが、すぐさま、それを頭の隅に押し込めた。


 やがて、階段の下まで辿り着いた彼は静かにしゃがみ込んで、自分の目の前にあるものを一心に見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る