第3話

まず、佐伯班の十一名が足音も立てずに勝手口がある家の裏手に回っていったのを見送ってから、隊長は飯沼班の十五名を引き連れて玄関へと走り寄った。


 無駄かもしれないと思ったが、一応、彼は玄関のドアノブに手を掛けてゆっくりと静かに捻ってみた。


 ほんの一瞬の行動なのだが、わずかな音がしても身体が強張り、緊張が走るものだ。


 しかし、彼らの大多数の思惑を裏切るかの如く、ドアノブの感触はいとも簡単に軽くなった。玄関が開いた証拠だった。


 隊長は思わず、自分の後方に従う十五名の部下達を振り返ったが、すぐに我を取り戻して呼吸を整える。


「…行くぞ」


 そう小さく声をかけ、慎重に厚いドアを開け放ったと同時に、その身を玄関の内側へと滑り込ませた。


 直後、隊長は短く唸りながら素早く顔をしかめた。そして、後に続いて入ってきた警官十五名も全く同じ反応を見せた。


 彼らが見たのは、文字通り、血の海だった。


 内壁やフローリングの廊下には大量の鮮血が飛び散っており、自分達の足元の至る所に大きな赤い水溜まりがいくつも出来上がっている。


 飯沼班の一人がそっと自分の足を上げてみると、履いているブーツの底から真っ赤な雫が大きく滴った。

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