第11話 洞窟の奥。
「誰か、誰かそこにいるの!? お願い、助けて!! 」
百メートルほど進んだ時のことだ。洞窟の奥からそんな叫び声が聞こえて来た。
「……まずいな、冒険者たちは全員、足をやられている……! 」
思わず俺は、そう零す。
ちょうど洞窟内に広場のようになっている個所があり、そこに三人の冒険者、それから、彼らを取り囲むように四十匹は下らないゴブリンが犇めいていた。その奥には、聞いていたとおりゴブリン・シャーマンが杖を振るっている。
「今助ける」と俺が言うと、
「気をつけて! ゴブリン・シャーマンはあの杖で幻術を使うの。私たちもそれにやられて……! 」
彼女がそう言い終わる間もなく、ゴブリン・シャーマンが俺に向かって掌を翳す。
「“恐怖の幻像”」
と、しわがれた声で、そう唱えるのが聞こえる。この幻術に掛かると、到底敵うはずのない強敵に立ち向かっていると錯覚し、身体の自由が利かなくなる。だが……、
「“心眼”」
橋の隅にいたときに、とあるAランク冒険者のモンクに銀貨を頂いたことがある。彼が最近、“心眼”というパッシブスキルを入手した。このスキルを持っていると、よほどの強い幻術でない限り無効化できる。
「ギギ……!? ギギ!? 」
と、自身の幻術が効かなかったことに困惑したのか、ゴブリン・シャーマンは自身の掌を見つめて首を傾げている。
「幻術は効かない。ただ、どうやってこの状況を切り抜けたものかな……」
ゴブリン・シャーマンの使う幻術に耐性はあるものの、この狭い洞窟内でどう魔獣たちを倒したら良いか、判断が付きかねていた。“黒の雷光”を放ってしまえば冒険者にも当たるだろうし、なにより、洞窟が倒壊しかねない。ゴブリンを一体一体倒そうにも、ここに集まっている人数が多すぎて、動き回るスペースが足りない。とはいえ、後退しながら戦えば、その間に冒険者が殺されてしまうだろう。
悩んでいる暇はない。
とりあえず俺は、
「“癒しの波動”」
と、全体に効果のあるヒールの派生魔術を唱えた。
「えっ!? あなた、戦闘職じゃないの!? 快復魔術が使えるの!? 」
「全体効果なので効き目は弱いですが、動ける程度にはなるはずです! ひとまず、構えを整えてください! 」
地べたに尻もちをついていた彼らは、さすがに察しが良く、ばっと立ち上がり、三者三様、盾と剣を構えた。
そして俺は、彼らに向かって最近取得したとあるバフ・スキルを唱えた。
「“戦人の祝福”!! 」
続いて、
「えっ!? 」
「それって……、上級職パラディンのスキルじゃ……!? 」
という驚きの声が冒険者たちから上がる。
このバフは上級職であるパラディンのみが扱えるスキルで、俺が橋の隅にいたころ、俺に施しをくれたとあるAランク冒険者が最近取得したものだ。その効果は攻撃力と防御力の二倍化。さらに“心眼”ほど強力ではないが、幻術を無効化する力もある。
俺の背後には多くのAランク冒険者が控えていて、彼らが今の俺を力強く支えてくれているのを実感する。
「それじゃあみなさん、手分けしてこいつらを殲滅しましょう! 」
そう言うと、俺が唱えた“戦人の祝福”の効果に驚きつつ、冒険者たちはその武器で目の前の敵を倒し始めた。
十分後、
「これで、終わりだ……! 」
と、俺は最後に残った、たった一匹となったゴブリン・シャーマンの額に、深々と剣を突き刺した。
「……いろいろ聞きたいことはあるのだけど、ひとまずお礼を言うわ。助けてくれてありがとう」
と、肩で息をしながら、冒険者のひとりが言う。
「ねえ、あなた、“戦人の祝福”を唱えていたわよね? それも、物凄い効果の高い……。しかもその前には、恢復の魔術まで唱えていたし……。複数の職業のスキルを扱えるなんて、聞いたことないわよ。あなた、いったい何者なの!?? 」
と、別の冒険者が割って入る。
いよいよ俺のチートスキルを隠していることも難しくなり、どうしたものかと思案していると、
「……待て待て、困っているじゃないか。言いたくないこともあるだろうさ。それに、冒険者同士は詮索しないのが鉄則だろう? 」
と、この三人のうち、唯一の男性が、そう割って入ってくれた。それから、
「俺たちは“銀狼の牙”に所属する冒険者で、俺の名前はフレックス。このふたりは……」
「アミ」
「私はミウ」
と自己紹介してくれた。そして改めて俺が名前を名乗ると、なぜこの状況に追い込まれたか、フレックスが説明してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます